
日本のやきものの歴史や技術などの基礎知識が図解でわかるコンパクトな一冊
うつわや陶磁器などに関する書籍は数多く出版されています。そういう本を読んで知った様々な知識を、頭の中に要領よく整理していつでも引き出せる人もいると思いますが、私は知っているはずの知識がうろ覚えなので、また確認したくなったりしてしまうことが多いです。そういう時に頼りになるのは、基礎知識が網羅的に分かりやすく整理されているような本です。そんな都合の良い本はなかなかないのですが、本書はまさにそんな一冊です。手許において確認したいことがすぐに調べられます。
筆者について
本書の特徴の一つは、筆者の伊藤嘉章氏が、日本の陶磁史研究の研究者であり、特に中世から近世を専門とする美術史家・日本工芸史の研究者であるということです。東京国立博物館に勤務していたこともあり、九州国立博物館の副館長などを歴任し、愛知県陶磁美術館の館長も務められました。
本書は、アカデミックな研究を根拠にして書かれているので、知識の信頼性が高く正確で、安心して疑問点を調べることができます。
Part 1 伝統のやきものを知ろう
この章はタイトルのとおり、やきものの歴史をまとめた内容になっています。
最初に「大づかみ やきものの歴史」という簡単な年表が掲載されています。縄文時代から始まり江戸時代末までの日本の各時代と時代ごとのやきものの名称とイラスト、中国と朝鮮の年代が併記されています。日本各地の代表的なやきものはこの年表の中にプロットされていて、時代の中でどんなやきものが生まれてきたのかが一目瞭然で分かります。こんな形でしっかりと年表形式でやきものの歴史を示している書籍は意外と少なく、自分の理解を確認する意味でもとても役に立ちそうです。
その後には「大づかみ やきものの歴史」に従って、代表的な伝統的なやきものがそれぞれ見開き2ページから6ページで解説されています。やきものが生まれた経緯やエピソードなどが迫力のある写真とともに掲載されています。研究者としての専門性が高い解説と興味深いエピソードは読み応え十分。うつわ好きの好奇心を大いに満たしてくれるものです。
特集の「茶の湯とやきもの」は、茶の湯のたまの陶磁器製の道具「茶陶」について細かく解説されていて、「茶陶」についての一通りの知識を紹介しています。
また、コラムとして『「やきもの」の名称」』と『「古九谷」というやきもの』など興味深い解説を読むことができます。
Part 2 やきもの作りを知ろう
Part 1と同様に、Part 2は「やきもの作りの流れ」というフローチャートが紹介されています。土作りから窯出しまでの作業の流れが分かりやすく示されていて、代表的な工程には説明ページが用意されているので、それをインデックスとして知りたいページに飛ぶことができます。
各工程を解説するページには、江戸時代後期に刊行された、尾張国の名所旧跡を紹介する図録「尾張名所図会」の「瀬戸陶器職場」の絵を引用したり、やきものを作る工程を説明するイラストを用いて、分かりやすいビジュアルで説明されていて、楽しく読むことができます。
特に勉強になったのは、「やきものの装飾」の解説ページ。素地につける装飾、異なる土を使う装飾、釉を使う装飾、絵を描く装飾など、簡潔ではありますが、詳細に分類が示されています。
Part 3 やきものの形を知ろう
Part 3では、やきものの形にフォーカスを当てて整理しています。やきもののかたちに関する各種の用語や定義や、やきものの様々な形の呼称がイラストで解説されています。部位の名称の解説もあって、大変分かりやすく便利です。かなりの範囲が網羅されていて、ちょっと感動ものです。
Part 4 資料編
資料編では、古代まで、中世、近世と大きく3つの時代の流れに沿って、窯の所在が日本地図の白図にプロットされています。時代ごとに分けてプロットされているので、どの時代の窯なのかも一目瞭然ですし、同じ時代にどんな窯があったのかもよく分かる素晴らしい資料です。さすが研究者の視点は一味違うなと思いました。
巻末には日本美術史年表が掲載されています。縄文土器の制作が始まったB.C.16000から江戸時代末の大政奉還まで、日本美術のおもな出来事とその他の歴史的な出来事について、本書が対象としている範囲をきっちりカバーしています。
まとめ
冒頭にお伝えしたように、日本の陶磁史の研究者による信頼性の高いやきものの情報が、実にコンパクトに高い密度で分かりやすく纏められている本です。日本のやきものについて調べたいことがあれば、まず開いてみるべき一冊といえると思います。あくまでもコンパクト版なので、情報は限られていますが、基本的な情報は網羅されているのでいつも手許に置いてちょっと調べる、そんな使い方が良さそうです。
ぜひ一度、手に取ってご覧ください。おすすめです。

図解 日本のやきもの (てのひら手帖)

