釉薬の奥深い世界を知るための基礎知識とノウハウが満載!「はじめての釉薬」


釉薬の奥深い世界を知るための基礎知識とノウハウが満載!「はじめての釉薬」

今回は陶芸の少々専門的な内容になりますが、「はじめての釉薬」という本をご紹介したいと思います。

2013年発行の本です。発行されてから10年以上経過していますが、釉薬についての内容なので古さを感じません。

表紙には、「やきものがますます楽しくなる」というサブタイトルがあります。

やきものを買ったり使ったりする一般ユーザーの方にとって、釉薬について、詳しく知る必要はないかも知れません。しかし、釉薬の魅力的で不思議な世界、神様の仕業ではないか感じさせるような、神秘的な科学変化の世界を知っておくことで、よりやきものの奥深い魅力を知ることができます。

そういう意味では、実際に作陶をして釉薬を扱う方はもちろん、陶芸に興味を持たれている方であれば、釉薬について詳しく解説している本書を読むことは意味があるのではないでしょうか。

知っているようで知らないことも多い、釉薬の世界を知る第一歩になるでしょう。

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第一章 釉薬を楽しむために

釉薬を楽しむために必要な基礎知識について解説しています。

釉薬の装飾法

一般的には、下絵付けと上絵付けの二つの方法があり、その二つについて解説しています。

釉薬の発色のメカニズム

やきものを焼く方法には二つの方法があります。完全燃焼させる酸化焼成と、不完全燃焼の還元焼成です。この二つの焼成方法について解説しています。

釉薬の種類と分類

釉薬の種類の概要説明です。詳細については、以降の章で解説されています。

粉末釉薬の溶き方

市販されている粉末釉薬を水で解く手順が解説されています。必要な道具と手順が写真で丁寧に説明されています。写真とキャプションを辿っていけば分かるようになっています。

釉薬の撥水と接着

釉薬を掛けるときに、撥水や接着が必要になることがあります。その時に必要となる材料や薬剤についての解説です。

釉薬と焼き色

本書の一つの目玉のコンテンツが、この「釉薬と焼き色」です。サンプルの素焼きの湯呑みに対して、さまざまな釉薬を掛けて焼成した実際の写真が一覧できるようになっています。

まず、素焼きの湯呑みが「白土」と「赤土」の場合について、それぞれ「酸化焼成」と「還元焼成」

したときの写真が並びます。1つの釉薬に対して、4枚の焼成サンプル写真。そしてその釉薬の発色の特徴について、簡単なコメントが付されています。

サンプル写真が準備されている釉薬の種類は、実に75種類

もちろん印刷物なので、実際のやきものの色と全く同じとはいきませんが、概ねの色調や風合いを比較することができます。

サンプルが準備されている釉薬は次のとおりです。

白マット
白志野釉
真黒マット釉
真黒天目釉
紅志野釉
紫辰砂釉
紫釉
緑いらぼ釉
緑青銅釉
茶あめ釉
茶そば釉
還元ビードロ釉
唐津釉
赤萩釉
辰砂釉
還元なまこ釉
還元織部釉
酸化なまこ釉
還元ビードロ釉
金ラスター釉
柞灰釉
金茶釉
鉄砂釉
鉄赤釉
青いらぼ釉
青磁釉
青萩釉
淡青磁釉
松灰釉
青銅結晶釉
青銅マット釉
光沢トルコ青釉
黒そば釉
黒マット釉
黒天目釉
一号天竜寺青磁釉
二号白萩釉
三号白萩釉
火色釉
瀬戸黒釉
油滴天目釉
柿釉
朱金結晶釉
月白釉
志野釉
均窯釉
唐津透明釉
うのふ釉
乳白釉
一号銅青磁釉
一号織部釉
一号白萩釉
一号失透透明釉
一号土灰釉
ルリ釉
マンガン窯変結晶釉
マット黄釉
マット青磁釉
マグネシヤマット釉
いぶし釉
あめ釉
F黄瀬戸釉
ワラ灰白萩釉
トルコ青釉
トルコ紺青釉
チタン失透釉
チタンマット釉
F織部釉
一号透明釉
二号黄色瀬戸釉
一号貫入青磁釉
ひわ釉
二号織部釉
しぶ柿釉
つや消しトルコ釉

すごい数ですね!

本当に素晴らしい資料だと思います。この数の釉薬を二種類の素焼きの茶碗、二種類の焼成方法で焼成して、同じ条件で撮影する。。。なんという労力でしょう。言葉がありません。

第二章 釉掛けをとことん楽しむ

このタイトルにも、編者の釉薬に対する思いが滲みます。

釉掛けの4つの基本

釉薬掛けの4つの基本として、浸し掛け、流し掛け、塗り掛け、吹き掛けが、実際の手順の写真とともに紹介されています。

釉薬の掛け方いろいろ

ここからは、実際のうつわに様々な釉薬を実際に掛けて焼成して、その特徴が解説されています。

釉薬の種類、うつわの種類、推奨の釉掛けの方法、酸化/還元焼成の別について、写真とともに解説されています。複数の釉薬を併用するケースについても取り上げられています。

うつわと釉薬のバランス、色調など総合的に見ることができます。説明に使われている写真はとても大きいサイズで、ライティングもフラットでナチュラルなので、釉薬や焼成方法の選択の参考になりそうです。

釉掛けの技法裏技

本書のもう一つの見どころが、この「釉掛けの技法裏技」です。

陶芸を深く知ると、基本的な技法だけでは物足りなくなることがあると思います。少し変わった裏技に挑戦したい!と思ったときに参考になる裏技が紹介されています。

これも半端ない数で、実に51もの裏技が、作業手順の写真付きで紹介されています。

実際に手を動かして作陶されている方には、とても参考になるのではないでしょうか?

見て使ってうつわを楽しむ方には、そこまで知る必要はないと思いますが、陶芸の奥深さを知る意味では興味深い内容だと思います。

第三章 絵付けを楽しむ

絵付けの用具

絵付けをするときに必要になる様々な筆や刷毛、転写紙、下絵の具などが紹介されています。

上絵付け


上絵の具は、中国明代の五彩が起源とされています。和絵の具、洋絵の具、金液・銀液について解説があります。

下絵付け

下絵付けとして代表的なゴス絵(染付)やベンガラ絵(鉄絵)に加えて、色絵やパステル画の技法が写真とともに紹介されています。

下絵の転写

転写紙を使った下絵の転写についての解説です。

上絵の転写

転写紙を使った上絵の転写についての解説です。

まとめ

一見地味な釉薬の世界ですが、その広がりと深さを再認識させてくれる本です。

焼成したサンプルの作成や撮影などは、大変な作業が伴うと思います。
それにもかかわらず、とても丁寧に比較しやすいように編集されていて、作陶される方の気持ちになってつくられている本だと思いました。

また、釉薬掛けは、具体的な作業の手順を理解することが大切だと思うのですが、コマ送りで作業工程が丁寧に撮影されていて、大変参考になる内容となっています。

専門性が高い、ある意味地味な本ですが、陶芸を愛する人に向けた情熱を感じる素晴らしい本です。

最後になりますが、本書に出てくる釉薬は、シンリュウ株式会社の製品になります。他社製品の釉薬の場合、また違った結果になる可能性があります。

シンリュウ株式会社

それとご参考までに、実作業は向山窯が担当しているとのこと。

向山窯

ぜひ一度手に取ってみて頂ければと思います。

それでは、また。


その他に、やきものに関する知識やナレッジを学べる本もご紹介しています。
ご興味があれば、ぜひご一読ください。

陶芸雑誌陶工房の知見が凝縮されたナレッジ満載!「やきものの教科書」

やきもの好きの知識とこだわり満載の良著!「よくわかる やきもの大事典」

『すぐわかる産地別やきものの見わけ方』改訂版 監修 佐々木秀憲(東京美術)

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