陶芸雑誌陶工房の知見が凝縮されたナレッジ満載!「やきものの教科書」


陶芸雑誌陶工房の知見が凝縮されたナレッジ満載!「やきものの教科書」

今回は、書店の陶芸関係のコーナーに並んでいる本の中から、「やきものの教科書」という本をご紹介したいと思います。

2020年発行なので比較的古い本が多い陶磁器関係の書籍としては、新しい部類になります。

カバーの袖には、「器の種類やつくり方、全国のやきもの産地や用語集など、知っておきたい基礎知識をまとめました。お気に入りの一枚を見つけたい人、器好きのための一冊です。」といううつわ好きの気持ちをくすぐる言葉が並びます。

これは期待できそう!と思いましたが、この言葉にいつわりはありませんでした。

新しい本なので、最新の知見が紹介されていますし、現代の陶芸家の作品も数多く掲載されていて、陶磁器の世界の現在形を俯瞰するのにも良い本です。

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編者について

本のクレジットには「陶工房編集部 編」とあります。「陶工房」とは、誠文堂新光社が発行している陶芸雑誌です。1996年創刊で、焼き物をつくってみたい人、さらに腕を上げたい人のための陶芸雑誌というコンセプト。残念ながら、2020年2月で休刊となってしまいました。本書の発行が2020年4月24日なので、今までの記事の集大成として編纂されたものでしょう。

集大成にふさわしい内容になっていると思います。

また、内容は過去の陶芸雑誌「陶工房」の内容と連携しているので、「陶工房」のバックナンバーを読めば、さらに詳しい知見や情報が得られると思います。

陶芸雑誌「陶工房」バックナンバー

本書の内容


本書の内容を、簡単にご紹介していきましょう。

1章 やきものの器

「やきものの器には様々な種類があります。この章では器の形や装飾などに分け、作家ものの作品を例に解説します。」

この章では、やきものそのものについて解説しています。

器の基礎知識

まず最初に、知っておくべき基本事項の解説があります。

器の部分の名称で、イラストと写真で典型的な器の各部名称を解説しています。理解する上でのポイントも併記されています。

「陶器」と「磁器」で、この2つのやきものの違いが解説されています。やきものを知る上での基本事項なので、押さえておきたいところ。

器の見所・楽しみ方では、うつわを楽しむ上での切り口が紹介されています。もちろん、人によってどの切り口を重視するかは様々ですが、意識していなかった切り口を知ることもできます。

良い器選びのポイントでは、使い勝手の視点から、うつわを買うときのポイントが紹介されています。

器の種類

器の種類として、用途別の種類で分類されています。この本の素晴らしいところは、その中でさらに形状や使い勝手による違いまで分類して、名称と作品が紹介されているところ。器を見るときの知識が間違いなく底上げされるでしょう。

例えば、「皿」といっても「十角皿」「楕円皿」「輪花皿」「角皿」「八寸」「葉皿」「小皿・豆皿」といった具合です。

器の装飾

器の装飾についても、掘り下げ方が素晴らしいです。

例えば、「白化粧」といっても「粉引」「三島手」「刷毛目」「掻き落とし」「イッチン描き」「しのぎ」といった具合です。知りたいことは一通り漏れなく網羅しているように思います。

器の釉薬

器の釉薬についても、同様です。

それぞれの釉薬の写真と解説、釉薬の原料や特徴など。似ている釉薬の紹介、焼成の仕方など。

2章 やきもののつくり方

「やきもののつくり方は様々です。この章では原材料から成形、装飾まで、種類別に工程を含めて解説します。」

この章では、やきもののつくり方自体について解説しています。

つくるときに使う道具や材料、実際の制作工程が写真でヴィジュアルに解説されています。

やきもの技法一覧早見表

圧巻なのは、このやきもの技法一覧早見表です。成形や装飾の工程、素焼きや本焼き、それぞれの作業がどの焼きの前なのか後なのか、技法ごとに一目でわかる一覧表になっています。

この一覧早見表があれば、選んだ技法はどんなプロセスで進めればいいのか、たちどころにわかります。もちろんプロの陶芸家は、全て頭に入っていると思いますけれど。

そして、粘土のキホン/成形のキホン/装飾のキホン/釉掛けのキホン/焼成のキホン/薪窯による窯変という括りで、詳細な技法の解説があります。

各技法は、全て写真によってプロセスが丁寧に解説されています。必要な道具や材料も、漏れなく掲載されています。このクオリティーと分かりやすさは感動ものです。

3章 やきものの産地

「日本全国にやきものの産地があります。この章ではおもな産地の歴史や特徴、見所などを解説します。」

この章は、陶芸本によくあるやきものの産地についての解説です。

器自体の解説、やきもの技法について、かなりのページ数を割いているため、一般的な本の産地解説よりは、ボリュームが少なく解説も比較的簡便です。

やきもの産地ガイド

全国やきもの産地MAPが、最初に掲載されていて、それぞれの産地について、1ページ、または見開き2ページで解説されています。それぞれの産地について、もっと詳しく知りたい場合は、産地について詳しく解説している他の本を当たった方がいいかも知れません。


本ブログでは、「すぐわかる産地別やきものの見分け方」、「やきものの見方・楽しみ方」などの本をご紹介しています。ご興味がある方は、そちらもご覧ください。

【書評】『すぐわかる産地別やきものの見わけ方』改訂版 監修 佐々木秀憲(東京美術)

【書評】『やきものの見方・楽しみ方』仁木 正格(主婦の友社)

1章ではやきものそのものについて、2章ではそのつくり方、3章ではその産地について、ということで、オーソドックスな構成といえると思います。日本のやきものの全貌を俯瞰できる構成になっています。さらに深掘りしたければ、上述の「陶工房」のバックナンバーを調べればいいので、ナレッジとして深さと広がりもあるが素晴らしいと思います。単発の陶芸本では、なかなかこうはいきません。

本書の特徴

系統的に整理されたナレッジ


陶芸雑誌「陶工房」の内容に準拠しているので、ナレッジが系統的に整理されている印象でした。雑誌で一度編集されて整理されたナレッジが、改めて一冊の本として再編集されているのが大きく寄与しているのでしょう。そういう意味では類書の追随を許さないクオリティです。

深掘りされた質の高いナレッジ


前項と同様ですが、「陶工房」で掲載された内容がベースになっています。ベースになる幅広い知見があり、そのエッセンスが凝縮されているので、自ずと質の高いナレッジになっていると思います。「陶工房」のバックナンバーを見ることで、より深くナレッジを知ることもできるでしょう。

現代陶芸家を知ることができる


この本では、美術館級の名品を中心に解説している陶芸本とは違って、現代の陶芸家の作品が作例として取り上げられているので、陶磁器の現在形を知ることができます。それが大きな魅力なのですが、逆に伝統的なやきものを知りたい場合は、他の本も併せてチェックした方がいいと思います。

ヴィジュアルな解説


全般的に図版や写真が多く、ヴィジュアルで分かりやすい解説です。読んでいてストレスを感じることも少なく、気持ちよく読み進めることができます。

読みやすい判型


一般的な判型の本よりも、横幅が広く紙面のレイアウトに余裕があるため、十分な余白が確保されたレイアウトになっています。見やすさはもちろんのこと、広げやすいのでそれも読みやすさに寄与しています。

まとめ

充実した内容の本なのですが、その割にコンパクトで読みやすいのに驚きます。

掲載されている情報の鮮度はとても高いです。意欲的な内容で、現代の陶芸家の作品が多いのも魅力です。それゆえ陳腐化が早く進む可能性もあるので、定期的な改訂をして頂けると嬉しいです。陶芸雑誌「陶工房」が休刊しているので、そのあたりが少々心配ですが。。。

紹介されている作品も現代作家のものが多く刺激的です。また、技術的な内容も充実していて、やきものを深く理解するにはうってつけの素晴らしい本だと思います。

ぜひ一度手に取ってみて頂ければと思います。

それでは、また。

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