蕎麦猪口について調べたいときに頼りになる一冊!『蕎麦猪口大事典』大橋康二
本書について
骨董好きなので、骨董市やフリーマーケットなどに行くことが多いのですが、よく見かけるのが、蕎麦猪口です。
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一般的に蕎麦猪口といえば、そばつゆを入れて、そばを食べる時に用いるうつわですが、その手頃な大きさや、いろいろな使い方ができることから人気があります。
現在も大量生産されている蕎麦猪口や、職人さんが描いたものなども売られていますが、私が愛してやまないのが、アンティークやヴィンテージの蕎麦猪口です。
蕎麦猪口が生まれたのは、17世紀頃と言われていますが、その頃から明治、大正、昭和の初期ごろまでに作られたもの、つまりアンティーク、ヴィンテージの蕎麦猪口に描かれている文様は、多種多様でとても魅力的です。
小さいうつわなのですが、バリエーションが豊富であること、当時の庶民の文化や生活を反映していること、職人の手仕事が感じられることが大きな魅力になっているのです。
その一方でバリエーションの豊かさゆえに、その蕎麦猪口の産地や時代、描かれている絵にどんな意味が込められているのかを知ることはけっこう難しいのです。自分で調べようにも、手掛かりが乏しいのが現実ですが、そんな時に頼りになる本があります。
本日は、蕎麦猪口好きの味方『年代別蕎麦猪口大事典』監修・執筆 大橋康二(講談社)を紹介したいと思います。
著者について
著者の大橋康二さんについて、簡単にご説明します。
1948年生まれ。
青山学院大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。
1980年から佐賀県立九州陶磁文化館学芸員となり、2006年から同館館長。
2013年より同館名誉顧問、県立有田窯業大学校教授。
2017年より同館名誉顧問、佐賀大学非常勤講師。
現在は、その他に
東洋陶磁学会名誉顧問
NPO法人アジア文化財協力協会理事長
近世陶磁研究会会長
日本の陶磁器考古学の権威として活躍されています。
目次
蕎麦猪口の掲載総数は2000点を超え、写真は解説文内を除いて、全てがカラーになっています。様式別年代別で整理されていて、時代を追って蕎麦猪口の変遷を見ることができます。様式の各章の前に丁寧な考察と解説があり、蕎麦猪口の変遷や歴史的な意味について、理解を深めることができます。
延宝様式(一六七〇~一六九〇年代)―肥前磁器の爛熟期
元禄様式(一六九〇~一七五〇年代)―印刷装飾法の盛行
宝暦様式(一七五〇~一七八〇年代)―国内市場の開拓
天明様式(一七八〇~一八六〇年代)―地方窯との競合
明治の様式(一七八〇年代~)
各地の窯
高台付猪口
資料編
資料編の中では、蕎麦猪口の部位ごとの変遷や、主な古窯跡の紹介、年表が掲載されていて、俯瞰的に蕎麦猪口の発展の歴史を見ることができます。
自分の蕎麦猪口を調べてみた
本書を拠り所として、蕎麦猪口をどうやって調べるかを具体的に紹介しましょう。
それぞれの様式の蕎麦猪口は、フルカラーの写真と凡例に基づいた詳細な情報が掲載されていて、各部のディテールなどを知ることができます。
各ページあたり6つの蕎麦猪口が掲載されているので、見開きで12の蕎麦猪口を一度に見ることができます。写真の大きさも適切で、全体の印象から詳細まで確認できます。
[凡例]
外面模様の名称、制作年代
①技法・釉薬(染付・色絵・青磁など)
②寸法(高さx口径の順で単位はセンチメートル)
③産地(肥前・有田や瀬戸・美濃など)
④口縁部の文様と形状(四方襷・口金・口紅・端反、輪花など)
⑤見込の文様(五弁花・環状松竹梅・圏線など)
⑥底裏銘と形状(大明年製・渦福・冨貴長春・蛇目凹形など)
⑦裾の文様(蓮弁・圏線など)
⑧公共機関の所蔵者(個人コレクションや古美術商の表示は省略)
私の手許にあった蕎麦猪口を例にとって、説明していきます。
この凡例に従って表記をすると次のようになります。
四方襷・七宝文・菊花・井桁文
一七七〇~九〇年代
①技法・釉薬:染付
②寸法:5.9 x 7.8
③産地:肥前
④口縁部の文様と形状:四方襷
⑤見込の文様:五弁花・圏線
⑥底裏銘と形状:蛇目凹形
⑦裾の文様:圏線
それでは一つずつ見ていきましょう。
こんな感じで、ひとつひとつの蕎麦猪口の意匠の特長がまとめられています。
実際の本の中では、引き出し線の説明はありません。
今回は偶然なのですが、手持ちの蕎麦猪口とほぼ同じものが掲載されていました。
こんなふうに見ていくと、蕎麦猪口はどこに注目すればいいのか、どんなデザインがあるのか、どの時代のものなのか、そんなことが分かってきます。とても楽しい作業です。
まとめ
蕎麦猪口に興味を持って調べていくと、どこに注目して蕎麦猪口を見ればいいのか、だんだん分かってきます。何事もそうですが、基本的な文法というか、作法があって、それを尊重しながらも、作り手が自分の個性をどう表現しようかと工夫を凝らしていることがわかります。昔の作り手と対話しているみたいで、本当に楽しいです。
自分の蕎麦猪口が、どの時代のものか、どういう特長があるのか、描かれている絵にどういう意味が込められているのか、そういうことが理解できるようになると、今まで以上に蕎麦猪口への興味と愛着が湧いてきます。
また、大事典を眺めていて、「この蕎麦猪口素敵だな~」と興味を持つと、次に骨董市を訪れるときに同じような蕎麦猪口を探してみるとか、そんな楽しみ方もありますよ。
大事典について、ご紹介してきました。
実は本書はほぼ絶版になっているようで、現状は入手が極めて困難な本になってしまっています。どの書店を探しても在庫はなし、中古本はもとの値段の数倍になるものもあります。
その代わりとして、同じ大橋康二先生の監修・執筆の『文様別 そば猪口図鑑』(青幻舎)を入手するという方法もあります。文庫サイズなので、本書よりはかなり安価で、収録されている蕎麦猪口の数も少ないのですが、残念ながらこちらも絶版になっているようです。中古本がもとの価格よりかなり高く取引されています。
本当に残念なことですが、こういう素晴らしい本は、ぜひ再版して欲しいですね。
出版社の方、ぜひ再版をしてください!お願いします!
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました!
それではまた。。。