英国から日本に伝わる民藝のうつわ その意匠と制作技法『スリップウェア』
スリップウェアについて
スリップウェアとは、陶器の一種で、独特の装飾技法を使って制作される焼き物です。古くから世界各地でつくられてきました。18世紀から19世紀にかけてイギリスで日常の料理に使われてきたのですが、工業化の波には勝てず姿を消してしまいます。
その後、スリップウェアは、一冊の洋書をきっかけに日本に広まることになります。その過程で、柳宗悦、バーナード・リーチや濱田庄司らが関わり、日本にスリップウェアを広める上で、大きな役割を果たしました。
日本でもスリップウェアを制作する作家が生まれ、日本の民藝において重要なアイテムとして注目されてきました。本書では、スリップウェアの歴史、イギリスとアメリカのスリップウェア、日本のスリップウェア、スリップウェアの制作技法、スリップウェアゆかりの地などが紹介されています。
本書の概要
I スリップウェアの歴史
中世陶器からスリップウェアへと発展していった歴史、スリップウェアが飾り皿からパイ皿への時代とともに変遷したプロセス、日本においてどのようにスリップウェアが受け入れられていったかを解説しています。社会や歴史のさまざまな状況や出来事が、スリップウェアの文化に与えた影響が概観できる興味深い内容になっています。
II イギリスとアメリカのスリップウェア
イギリスとアメリカのスリップウェアが、豊富な写真を中心に掲載されています。やはり18世紀から19世紀につくられた本場のイギリスのもののボリュームが大きいです。それぞれの写真には、丁寧なキャプションが付いていて、作品にまつわる背景などがよく分かります。また、文様ごとに作品がまとめられて掲載されているので、文様のバリエーションもよく理解できます。
アメリカのスリップウェアは、地元の土や鉛釉を使っていて赤みを帯びているため「レッドウェア」と呼ばれ、素朴な味わいがあるものが多いです。
III 日本のスリップウェア
日本でスリップウェアを広めることに貢献をした陶芸家の作品が紹介されています。
バーナード・リーチ
濱田庄司
河井寛次郎
舩木道忠
船木研兒
武内清二郎
IV 現代に伝わるスリップウェアの制作技法
スリップウェアは、日本で古くから行われてきた陶器製作とは全く異なる技法をとります。言葉で説明を聞いても、なかなか分かりづらいのですが、ヴィジュアルに説明されているので一目瞭然。最も特徴的なのは、最初に粘土を平面に整形した「たたら」をつくり、それにスリップで加飾して、それから整形することです。形をつくってから加飾するのが通常のプロセスですが、それとは全く逆なのが面白いですね。
でも冷静に考えれば当たり前のことなんです。化粧土(スリップ)は粘土が低い液体なので、複雑な器の形が予め出来ていると、流れ落ちてしまって、模様を描けないのです。けれども、最初に平面の「たたら」形状ならば、水平に置けば自由に絵が描きやすいというワケです。
スリップウェアの基本的な制作工程をひとつひとつ丁寧に写真で説明しているので、どう製作するのかがよく分かります。作家さんも紹介されています。
齊藤十郎
前野直史
伊藤丈浩
作家さんが、文様と描く道具も紹介されています。
V スリップウェアゆかりの地を訪ねる
日本とイギリスのスリップウェアとゆかりが深い窯元を紹介しています。
湯町窯[島根県 松江市]
布志名舩木窯[島根県 松江市]
リーチ・ポタリー[イギリス コーンウォール]
シェビア・ポタリー[イギリス デヴォン]
巻末には役にたつ情報が集められています。
ブックガイド
美術館ガイド
ショップリスト
用語解説
参考文献
本書の魅力
本書の魅力は、スリップウェアについてのナレッジが、系統立って整理されているところです。
今まではスリップウェアについて、ここまで纏められた本は少なかったようなので、スリップウェアについて知りたい人にとっては最高の本でしょう。また、150に及ぶスリップウェアの古い作品を収録していること、代表的な作家の作品も掲載されていること、製作技法をヴィジュアルに解説していることなど、見どころは多いです。今日に至るまでのスリップウェアの発展のプロセスと背景を解説しているのも魅力です。
原田マハさんの小説「リーチ先生」で、スリップウェアに興味を持った方や、現在巡回展を行っている展覧会「民藝 – MINGEI」展をご覧になって興味を持たれた方など、本書を読んで頂くと、より理解を深めることができると思います。本ブログで紹介している投稿のリンクを掲載しておきますので、ご興味があればぜひご覧ください。
世田谷美術館「民藝 – MINGEI 美は暮らしの中にある」展
これからも引き続き、面白い本をご紹介していきたいと思います。
それでは。。。