先進的すぎるがゆえに消えていった万年筆『ペリカン LEVEL L5』


ペリカン LEVEL L5 広告で見かけたのはこんな感じでペンが立っている写真だった気がする

先進的すぎるがゆえに消えていった万年筆『ペリカン LEVEL L5』

最初に出会った万年筆

私が最初に万年筆に出会ったのは、ずいぶん昔の話になる。

もともと筆記用具は好きで、ボールペンやシャープペン、鉛筆などをいろいろ試したりして、お気に入りの筆記用具を見つけて使っていたりした。だけど万年筆は、社長さんや偉い人が契約書なんかにサインをするような特別なペンだという、変な先入観があって、自分で使ってみようとは思わなかったのであった。

そんなある日、読んでいた雑誌の広告で、やたらと格好いいペンが掲載されていた。それは、ペリカンというドイツの有名万年筆メーカーの広告だったのだが、今まで見たこともないような刺激的なデザインだったのだ。はっきりとは思い出せないが、その広告は、シルバーの台座に半透明のブルーと半艶の美しいボディの万年筆が刺さっている写真だったと思う。

この万年筆の最大の特徴は、画期的なインク補充システムにあった。

Pelikan

画期的なインク補充システム

それまでの万年筆(今も大差ないはずだが)のインク補充方式は、ほぼ確立されていた。ほとんどの万年筆は、実績があるトラディショナルなインク供給方式を採用している。細かくいうと、過去に遡るといろいろな方式があるのだが、最近の万年筆で採用されている代表的な方式は次の3つの方式である。

  1. カートリッジ方式 インクが充填されたカートリッジを軸に差し込んでインクを補充する
  2. コンバーター方式 万年筆のペン先をインクに浸してから、カートリッジの後ろのピストンを引く、あるいは回転させることでインクを吸い込んで補充する
  3. 吸入式 万年筆の本体の後ろの部分(尻軸)を左に回転させて、内部のピストンを上げる。その後に、ペン先をインクに浸してから、尻軸を右に回転させてインクを吸い込んで補充する。

※カートリッジとコンバーターを両方使える両用式も多い

万年筆のインク補充方法(セーラー万年筆HP)

いずれの方式も、インクを供給するときにインクが漏れたり、インク壺を倒して周囲を汚してしまったりするリスクがあった。万年筆を使う上で、避けては通れない面倒臭さであり、リスクといえばリスクである。万年筆好きにとっては、楽しい儀式でもあるのだが。。。

そのリスクを解決する画期的なインク補充システムをひっさげて、ペリカンが世に問うたのが、LEVELという万年筆シリーズだった。

ペリカン LEVEL L5 隣にあるのがインク補充用のインクタンク

LEVELシリーズのインク補充用のインクタンクは、樹脂製でオシャレな紡錘形のケースに収納されている。ケースの底部は大きく開口が空いていて、内部の樹脂製のインクタンクを指で押すことができる。その蓋には、針状の細い突起があって、LEVEL万年筆の尻部に差し込めるようになっている。

左がインクタンクケース、手前がインクタンク(針のような管があり、これを万年筆の尻軸に挿入してインクを補充する)

LEVEL万年筆の構造は、普通の万年筆と全く違う。ボディのブルー部分は内蔵インクタンクで、尻軸側の大きいタンクと、ペン先側の小さいタンクの2つのタンクで構成されている。尻軸には、回転するシルバーのリングがついていて、インクを補充するときは、リングの三角マークを軸の黒丸マークに合わせてから、インクタンクを尻軸の穴に差し込んで底を指で押して、インクを注入すると、万年筆の大きいタンクにインクが充填される。

インクを補充するときは、リングの三角マークを軸の黒丸マークに合わせる
インクタンクを尻軸に挿入して、底を押してインクを注入する

次にリングを回して三角マークを軸の白丸マークに合わせると、大きいタンクのインクがペン先側の小さいタンクに流れ込んで、文字が書けるようになる仕組み。リングを再び回して三角マークを軸の白丸マークに合わせると2つのタンクの連結が閉鎖される。大きいタンクはリザーブタンクで、小さいタンクが文字を書くインクが入るタンクなのである。

三角マークを軸の白丸マークに合わせると、リザーブタンクからペン先側のタンクにインクが流れる

この2つのタンクの両方を合わせた容量はかなり大きくて、いったんインクを満タンにしておくと、かなり長い間インクを補充しなくても文字を書き続けられる。それもこの万年筆の大きな特徴だった。めったにインクを補充しなくてもいいし、補充する時も手が汚れる心配はまったくない。これが、画期的なインク補充システムの仕組みである。

インクの残量が視認できるように、タンク部分はブルーの透明樹脂が採用されている。美しいボディのブルーの色に合わせて、使用できるインクの色は専用のブルーしかなかったと記憶している。

先進的なシステムが命取りに。。。

インク補充のストレスはないし、14Kのペン先の書き心地は素晴らしいし、透明ボディは美しく、程よい太さで握りやすい。本当にこの万年筆のことは気に入っていて、当時は文字からスケッチまで、書くものはほとんど全てこの万年筆を使っていたほど。

ところがLEVEL L5は、その先進的な機能やデザインにも関わらず、売れ行きが思わしくなかったらしく、数年で廃盤となってしまった。インクの補充は、特殊な専用インクタンクからしかできない。廃盤になってからも、しばらくは専用インクタンクが入手ができたのだが、やがて消耗品の供給が途絶えて、インクが補充できなくなってしまった。

そして、この万年筆のもう一つの弱点は、分解清掃ができないこと。壊してしまう危険を省みずに分解できないわけではないが、基本的には内部洗浄が不可能。廃盤になってからしばらくして、内部機構の調子が悪くなって、ペン先からインクがやたらと出過ぎたり出にくくなったり、快適に使うことが難しくなってしまった。

そんなワケで、数年間毎日のように愛用していたPELIKAN LEVEL L5は、やがてお蔵入りに。。。次第に万年筆からも遠ざかってしまったのであった。

専用インクタンクからしかインクの補充ができないこと、ユーザーがメンテナンスできない特殊な機構を採用したこと、この2つが普及しなかった大きな理由だと思われた。モデルチェンジして、弱点を改善することもできたと思うが、ペリカンはあっさり廃盤という道を選んだのだった。残念。

それ以降、ペリカンはこのような挑戦的なモデルを出していない。

時代の徒花のような万年筆、LEVEL L5。

自分のL5は今も調子が悪いままで、通常の使用に耐える状態ではない。廃盤になって久しいので、きちんと書ける完動品を入手するには、e-bayなどで探すくらいしかない。たまにe-bayを覗くと程度が良い商品もたまにあったりするので、ポチッとしたくなる衝動に駆られてしまう。。。

同時に、いずれ壊れてしまうリスクや、インク問題が脳裏をよぎる。

嗚呼、さらばLEVEL L5!



タイトルとURLをコピーしました