
ライフスタイルと民藝の素敵な関係と、住み手の人生哲学を知る『暮らしの民藝』
本書について
今回ご紹介するのは、前回ご紹介した「民藝の教科書① うつわ」と同じ萩原健太郎さんが筆者です。民藝の教科書は、民藝の考え方や基礎知識、日本各地の産地を訪ねて民窯のやきものを紹介する本でした。いわば、前者は作り手の視点で書かれた本だったのに対して、本書は使い手の視点でまとめられています。筆者としては、作り手と使い手の両方の見方で民藝を考えています。大いに共感できるスタンスだと感じます。
本書では、暮らしの中に民藝を上手に取りいれている14組の生活スタイルが紹介されています。
当たり前ですが、14組あれば14通りの生活スタイルがあります。どんな職業で、どのような形で民藝を取り入れているか、それぞれの生活スタイルと民藝の関係を見ることによって、刺激を受けることもありますし、参考になることも多いです。また、知らなかった民藝の魅力に気が付いたり、新しい作家さんの作品を知ったり。いろいろな刺激がある楽しい民藝の本なのです。
全体の構成はとてもシンプル。
14組のライフスタイルがインタビュー形式でまとめられています。
民藝の品が置かれた家の中の風景を撮った写真を中心に、住み手のこだわりのうつわや民藝の品をピックアップ写真など。魅力的な写真が紙面をたっぷり使って自由なレイアウトで紹介されています。筆者がインタビューした内容がキャプションで補足されていて、ヴィジュアル的にも共感できるつくりになっています。
写真を見て印象的だったのは、基本的に人工光を使わず、外から入ってくる自然光で撮影されていること。民藝の作品の素材感、空気感がそのまま伝わってくる写真が多いのです。
民藝の作品が実際に使われている生活のシーンの写真が多く、まるで民藝作品の素敵な写真集のよう。パラパラとページをめくっていると、あたかも素敵なお家のインテリアを見せてもらっているような印象なのです。
14組のライフスタイル
写真中心の本なので、文章で説明するのはなかなか難しいのですが、紹介されている14組の生活スタイルのうちいくつかを、感想も含めて簡単にご紹介したいと思います。
MINGEI in Life / 1 東京都三鷹市 哲学者
建築家が手掛けた住宅街の一角に建つ一軒家。もともと陶芸家の家で、木材をふんだんに使ったナチュラルな素材感が魅力的なおうちです。生活の中に「うるおい」をもたらすことを意図して、ピッチャーなど、陶器のうつわを上手に取り入れています。
MINGEI in Life / 2 東京都渋谷区 編集者
来日して、ライフスタイル誌を発行する会社を設立したアメリカ人と、そのパートナーが住む築80年の日本家屋。オーソドックスな日本らしい建築。日本各地の旅先で出会ったものを生活に取り入れていて、家の中に場所感が感じられて旅の思い出につながるような楽しみ方をしています。民藝の魅力は、日常で使えるところ、愛が感じられるところとのこと。
MINGEI in Life / 3 東京都杉並区 料理家、フードスタイリスト
煉瓦色の瀟洒なマンション。使い勝手だけでなく写真写りがいい道具たちが揃っています。食器棚にはさまざまなテイストの食器が並びます。盛り付けされている姿が想像しやすい、白っぽいもの、土っぽいものがお好み。白い壁、無垢材のフローリング、アンティークの家具の自然が感じられて風通しが良いリビングが素敵です。
MINGEI in Life / 4 東京都武蔵野市 商業施設プロデューサー
鉄筋コンクリート造3階建てのビルの一室には、無機質な外観とは対照的な木材と緑に溢れるオーガニックな空間が広がっています。フルリノベーションで、剥き出しになったコンクリートと、蒐集してきた古道具や古家具が織りなすちょっと刺激的な空間です。100点満点を望まず、いろいろな素材を実験的に使って楽しんでいます。
MINGEI in Life / 5 東京都江東区 雑貨店店主
雑貨店を営む店主の品揃えのコンセプトは「手の届く上質」。自分が家で使うものと同じ基準でセレクトされています。ご自宅は、お店と同様にシンプルでギャラリーのような空間で、お気に入りの民藝の品々が彩りを添えています。ルーマニアのファブリックやロシアのマトリョーシカ、日本の手仕事のうつわなど、目に入るものすべてが目を楽しませてくれる空間です。
MINGEI in Life / 6 神奈川県鎌倉市 山ぶどう細工職人、黒板職人
鎌倉にある半世紀の時を重ねてきたリゾートマンションが、職人であるお二人のお住まい。色も素材もまちまちな世界中の民藝が共存しているお部屋です。ご主人は、ワークショップの見学をきっかけに、会社員から山ぶどう細工職人に転身。好きなものに囲まれて好きな仕事をしているライフスタイルが素敵です。
MINGEI in Life / 10 岐阜県高山市 民藝店店主
お住まい兼店舗は、移築された築150年古民家。ものを売るのではなく、ものと向き合う時間を販売しているというのが店主の考え方。柳宗悦の思想に共感して民藝店を開店したそうです。古民家の中で、民藝と向き合って「衣食住働」暮らしながら売る。そんな心地よい生活が息づいている空間です。
まとめ
ライフスタイルと民藝の関係をビジュアルに見せてくれる本でしたが、同時に住み手のライフスタイルや人生哲学まで知ることができます。
写真はもちろん素晴らしいし、民藝の作品を素敵に生活に取り入れている様子はとても参考になるものでした。文章で多くの説明を加えるよりも、写真が饒舌に住み手の考え方や空間の良さを伝えてくれる、そんな当たり前のことを再認識させてくれました。
日本の文化と手仕事が生活やライフスタイルをより魅力的にしてくれる、そんな実感が持てる本です。ぜひ一度手にとってみて、日本の民藝の魅力とご自分のライフスタイルの可能性を感じて頂きたいです。
それでは、また。