古美術や骨董について解説している本はいろいろあります。今回は、その中でも特徴がある面白い本を見つけたので、ご紹介したいと思います。
著者の紹介
本書の著者について紹介したいと思います。
荻窪にある「6次元」というブックカフェの店主。美術サロンのような空間で、ワークショップやトークイベントなども開催。骨董の鑑定番組や、日本の伝統文化を紹介する番組ディレクターなどを担当。金継ぎ作家としても活動中。著書として「金継ぎ手帖」「描いてわかる西洋絵画の教科書」「洋画家の美術史」「こじらせ美術館」などがあります。
本書の構成
「はじめに」の中で筆者は、こう述べています。
「古美術品は、時間をめでる装置。タイムカプセルです。」
「とにかく使ってみることが大切です。古美術を集めるのに、ルールや法則などありません。」
そんな考え方で古美術と向き合うときに、参考になるような本でありたいというのが、筆者の基本的なスタンスのようです。これには大いに共感しました。難しく考えるのではなく、必要最小限の知識をもって、気軽に自由に古美術を楽しむべきということだと思います。その必要最小限の知識を知るのが本書であってほしいということですね。
本書の構成ですが、古美術と言われる領域を大きく5つに分類して、次のような章立てとなっています。
第一章 陶磁器
第二章 書画
第三章 彫刻
第四章 工芸
第五章 西洋陶磁
もちろん、私には、この分類が正しいかどうかは分かりません。古美術を大きく捉えたときの一つの分類方法、筆者の考え方に基づく一つの捉え方という理解でいいのではないでしょうか。
本書の内容
第一章 陶磁器
第一章は最初の章であり、最も大きなボリュームが割かれている章です。筆者が最も力を入れている分野だといえるでしょう。
最初に「陶磁器進化の系統樹」「日本全国やきもの分布図」といった陶磁器を概観する情報がまとめられています。日本における陶磁器の歴史と分布の全体像を把握するためには良い情報だと思います。
次に、ここからがメインの内容になりますが、日本の歴史の中で生まれた「やきもの」にまつわる様々なキーワードをピックアップしています。それぞれのキーワードについて、短い解説文とそれに対応する素敵なイラストが付されています。
解説にイラストが使われている点が、本書の最大の特徴と言ってもいいでしょう。通常は実際のやきものなどの美しい写真が掲載されているものですが、その代わりに筆者の手になるイラストなのです。最初に見たときは、「なぜ?」と思ったのですが、じっくり見るとオリジナルの特徴を上手に捉えてデフォルメしたイラストになっていて、より特徴が分かりやすいような気がしてきました。
それはそれで「あり」なのではないでしょうか?「あとがき」にも触れられていますが、イラストを使うことが今回の執筆にあたってのコダワリだったのだと思います。そういう意味では、本書の最もユニークで特徴的なところであり、それを楽しみながら眺めたいなと思いました。
その後に「民藝運動とやきもの」というテーマで、 それにかかわった陶芸家の紹介があります。民藝運動の父、柳宗悦やバーナード・リーチなどの需要人物が紹介されています。
それから「茶碗の分類」「茶碗のかたち」といった茶碗のバリエーションの解説がきます。
そして「中国のやきもの」「韓国のやきもの」「ベトナムのやきもの」「タイのやきもの」といったアジア各国のやきものの紹介がきます。
第一章の最後には、代表的な陶芸家や陶芸デザイナーが紹介されていて、全般的な知識に触れることができるようになっています。
第二章 書画
第二章は、最初に「書と画」という解説と「唐絵と大和絵のざっくり日本画史」「唐様と和様のざっくり日本書道史」があります。「書と画」についての概説なのですが、それが日本画史と日本書道史と連動しています。具体的な作家名も記されているので、全体の流れがよく分かります。
それぞれの作家について、簡単な文章とイラストによる解説が続きます。
第三章 彫刻
第三章は、様々な仏像についての説明、代表的な彫刻家やデザイナーの説明となっています。かなり話が飛ぶので、ちょっと付いていくのが大変ですが、確かにどれも彫刻的な世界なので、ページ数と整理のやり方の制約からやむを得ないところなのでしょう。
第四章 工芸
第四章は、とてもカテゴリーとしての領域が広いため、かなり話が飛んでいます。漆器や蒔絵、螺鈿、クリスタル、洋風陶磁器やシルバー、世界のガラス工芸、工芸デザイナー、コーヒーミル(これは唐突感が否めませんでした。。。)、時代箪笥、型絵染め、ブルーノ・タウト、テディベアをはじめとする玩具、腕時計、万年筆、バッグ、カメラまで。どうしても触れたいものが多く、断片的な内容になってしまっている印象です。
第五章 西洋陶磁器
「西洋陶磁器という魔法」というコラムで、その魅力に触れたあと、北欧の陶器やヨーロッパ各国の有名陶磁器ブランドなどが紹介されています。第一章とは別に、西洋陶磁器の章を立てているところに筆者の思い入れを感じました。イラストでそれぞれのブランドの雰囲気を上手に表現していて驚きました。見ていて楽しいです。
巻末情報
東京、京都、大阪の「骨董市情報」、「古美術人物図鑑」が巻末の付録として付いています。人物のイラストが特徴を的確に捉えていて秀逸でした。
本書の魅力
本書は系統立って整理された学術書ではありません。あくまでの古美術を楽しむための雑学的な知識を知って、古美術に対する親しみと興味を持ってもらう、そんな本という前提で読んでもらうのがいいと思います。あくまでも肩の力を抜いて。
章立ても筆者の独特の見方が前提になっていますし、各章の密度もまちまちです。それでも一つの古美術の見方として捉えると、面白いなと思います。筆者が考える古美術の世界観を筆者が自ら描いたイラストで楽しむ、そんな本だと思います。
そういえば、裏表紙に
「陶磁器、書画、工芸がすっきりわかる図鑑のような『古美術の教科書』です。」
とありました。まさにその通りだと思います。
もしご興味が湧いたら、パラパラと楽しみながら眺める『古美術の教科書』を手に取ってみてはいかがでしょうか?
それでは。。。