【書評】『すぐわかる産地別やきものの見わけ方』改訂版 監修 佐々木秀憲(東京美術)


『すぐわかる産地別やきものの見け方』改訂版 表紙

【書評】『すぐわかる産地別やきものの見わけ方』改訂版 監修 佐々木秀憲(東京美術)

やきものを見わけたい!

やきものが好きになってくると、そのやきものがどの産地のものか、知りたくなってくるものです。しかし、やきものの産地の特徴やポイントを知らないと、なかなか正しく判断できないのです。そんな悩みに応えてくれるのが本書です。

もちろん、いろいろな才能豊かな陶芸家が活躍しているいま、陶芸の表現は多様化しています。作家独自の芸術表現は、伝統的な表現を超えて、どこの産地のものかという類型化が意味を持たない面があるのはたしかです。

とは言っても、やはり、やきものは産地に大きく依存するもの。作陶に使う土しかり、釉薬しかり、それぞれの土地固有の個性があってこそ、その魅力が生まれるものです。そういう意味で、やきものの産地をみわけることは基本として大切なことだと思います。

本書は、そんなお悩みにダイレクトに応えてくれます。平成12年(2000年)に初版が発行されましたが、平成22年(2010年)に改訂版が発行されました。改訂版では、産地との関わりの深い「人間国宝」の内容を増補、ヨーロッパの有名窯およびアジアのやきもののページが充実されています。

監修者紹介

本書は5名の執筆者が担当、全体を佐々木秀憲氏が監修しています。

監修:佐々木秀憲

執筆:荒井 よし子

   大城 尚

   渋谷 正子

   福留 省吾

   伏見 友之

佐々木秀憲氏は、日本の美術史家で、美術史学、芸術学、比較芸術学が専門。有田ポーセリンパークで学芸員、学芸室長を歴任。オックスフォード大学アシュモレアン美術・考古学博物館客員研究員を経て、現在川崎市岡本太郎技術館学芸員。共著で、『カラー版 日本やきもの史』(美術出版社)などがあります。

本書の特徴

本書の特徴は、何と言ってもタイトルにあります、産地別のやきものの見わけ方に焦点を当てている点です。それぞれの産地別のやきものの紹介ページでは、読者が理解しやすいように、次のような工夫がされています。

「ここが魅力!」というタイトルで、素材・技法・伝統など、産地特有のやきものが持つオリジナルな良さを、分かり易く箇条書きで示しています。そして、後につづく本文でその魅力について詳しく説明しています。大変分かりやすい流れだと思います。

「チャート」というタイトルで、少し専門的な内容が簡潔にまとめられています。産地の歴史や独自の技法について知っておくことは、その産地のやきものを理解する上で欠かせません。そうした背景を理解するとやきものを見分ける手がかりになります。

興味深いこぼれ話やエピソードは、「コラム」として紹介されています。よく比較されることが多いやきものの話とか、やきものの名前の由来などが書かれていて、薄茶色バックでハイライトされています。

「やきもの情報」では、やきものに関する基本情報がまとめられています。交通のアクセス方法や、問い合わせ先、美術館・博物館の案内、やきもの市などのイベント情報などもあります。

本書の構成

本書の構成をご紹介します。

冒頭に、人間国宝「銘品」ギャラリーということで、これまで認定された34人のうち、やきものの産地にかかわりの深い陶芸家13人の足跡と代表作が紹介されています。教養としても知っておいて損はないと思いますし、陶芸の素晴らしさを感じることができます。

次に「日本のやきもの」では、日本を代表する産地別のやきもの23種類が紹介されています。細かく見ていくともっと多くなりますが、厳選されたメジャーなやきものが網羅されています。本書のメインコンテンツなので、かなり多めのページ数が割かれています。

「海外のやきもの」では、中国や朝鮮など国別で5つ、ブランドが8つ紹介されています。それぞれ見開き2ページもしくは1ページですが、世界の有名な陶磁器の魅力を知ることができます。国別の紹介は「日本のやきもの」の間にランダムに挿入されていて、ブランドの紹介は「日本のやきもの」の後にまとめられています。見ているうちに、脈絡なく唐突に海外の紹介が出てくるので、全てを「日本のやきもの」の後にまとめても良かったのかなと思いました。

巻末には、「もっと知りたい人のために」ということで、器についての詳しい情報が載っています。器のかたちと各部の名称、やきものの種類や窯、焔、釉薬のはなしなどや、やきものができるまでのプロセス、用語解説もあります。また、実際にやきものを買ったり使ったりしまうときの注意点、全国の窯場一覧もあります。巻末部分のノンブルと目次が一致していなくて、少々混乱してしまいました。これは改善してほしい点です。

本書の魅力とは?

最後に、本書の魅力についてまとめました。

  • 産地別のやきものの見わけ方が整理されている
  • 日本の優れた作品の写真が掲載されている
  • 写真のキャプションが丁寧で作品が理解できる

本書の魅力は、何と言っても産地別のやきものの見わけ方が分かり易くシンプルに整理されているところです。本書を見ながらやきものを見ていくと、産地のイメージが頭に入ってきます。産地を知ることができれば、やきものをもっと深く楽しめるのではないでしょうか。

もう一つの大きな魅力は、作品の掲載写真です。日本全国の美術館や博物館、人間国宝の陶芸家などから写真協力をしてもらっているので、掲載されている写真は一級品の作品ばかりです。それだけでも眺める価値があります。

それぞれの写真のキャプションは、作品の名称だけでなく、主な特徴の説明もついているので、作品がとても理解しやすくなっています。知らず知らずのうちに、作品の見方が学べるでしょう。

やきものの見わけ方の説明をしている本や雑誌はいろいろありますが、これほどシンプルに分かり易く整理している本は多くはありません。ページ数も全143ページとそれほど多くないので、使いやすいと思います。

以前ご紹介した『やきものの見方・楽しみ方』は、やきものを深く理解することに力を入れていました。本書は、やきものの見わけ方を知りたいと思っている方は、選択肢の一つとして検討する価値が十分あるでしょう。

ご参考になれば幸いです。それでは。。。

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