『白洲正子』の審美眼と生き方を立体的に描き出す一冊!|美の種まく人


『白洲正子 美の種まく人』(新潮社)

『白洲正子』の審美眼と生き方を立体的に描き出す一冊!|美の種まく人

白洲正子という人物

私が白洲正子という人をはじめて知ったのは、白洲次郎について書かれた評伝を読んだときでした。白洲次郎の配偶者としてだったと記憶しています。実業家で、戦後の日本復興に貢献して、吉田茂首相の右腕として活躍した白洲次郎。戦後のGHQとの交渉において、得意のイギリス英語で日本の立場を主張して、日本国憲法の成立にも深く関わった人物ですよね。

2020年に制作された映画「日本独立」でも、終戦から日本国憲法制定と日本独立までの白洲次郎の活躍ぶりが描かれていました。

映画「日本独立」

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私は美しいものや古いものが好きなので、白洲次郎よりも、白洲次郎夫人で優れた随筆家、日本の美や骨董について深い審美眼と見識をもった骨董蒐集家、一流の文化人として知られる白洲正子に興味を持ちました。著書も何冊か読んでいます。

私の本の選び方でよくあることなのですが、タイトルや表紙で選んでしまったりします。いわゆる「ジャケ買い」のことです。この本は、まさにジャケ買いで選んだ本でした。「美に種まく人」。この言葉以上に、白洲正子に相応しいタイトルはあるでしょうか?

誰がつけたタイトルなのか知りませんが、本の内容に相応しい絶妙なタイトルだと思います。

白洲正子の二つの審美眼

白洲正子は、美しいものを見極めるときに、二つの審美眼を持っているのだと思います。

一つは、これから生まれてくるであろう美を見極める眼、もう一つはすでに完成していて、目の前にある美を見極める眼です。本書は、二部構成になっていますが、この二つの審美眼を浮かび上がらせる構成になっていると感じました。

第一部 美の種まく人

ここには、生前に関わりがあった8人の芸術家が語る白洲正子の印象が掲載されています。そして、それに呼応するカタチで、白洲正子がそれぞれの芸術家について記したエピソードが、交互に配置されています。この構成が独特の余韻を生み出していて、お互いの人物像を浮き彫りにして、とても素敵だと感じました。

ここで取り上げられている人は、次のとおりです。

川瀬敏郎 花人

加藤清允 小児科医、陶芸家

古澤万千子 染色工芸家

高田倭男 宮廷装束家 『高田装束研究所』

田島隆夫 織師

三宅一生 ファッションデザイナー

福住豊 庭師

中村訥郎 ツバキ園主

いずれも白洲正子と交流があった方々です。その濃淡と頻度はまちまちですが、それゆえに白洲正子の人物像が立体的に描き出されていきます。テキストと一緒に、白洲正子が高く評価したそれぞれの作品のカラー写真が掲載されていて、その審美眼を感じることができます。

第二部 骨董店にて

第二部には、白洲正子と骨董店主の間の出来事が3つ収録されています。

いずれの骨董店主も、客としてのの白洲正子との興味深いエピソードを持っていて、それぞれのエピソードから、白洲正子の類まれなる美を見極める力を感じます。印象的なのは、自分の好みに合うかどうかが全てで、品を見ると即座に判断できるぶれない審美眼。金額の多寡や人気の有無ではなく、大事なのは自分が欲しいかどうか。気に入れば「買うわ」の一言で買っていく気性には痺れます。

ここに登場する骨董店主は、次のとおりです。

坂田和實 骨董商、美術評論家。『古道具坂田』店主
     ※『古道具坂田』は、店主逝去により2020年閉店。

瀬津吉平 『吉平美術店』店主 

宮島格三 『壺中居』代表取締役

附 清少納言

この原稿は、巻末に付されているもので、白洲正子が没後に発見されたものです。特にコメントはないので、この紹介のみにとどめておきます。

最後に

本書は決してページ数が多い書籍ではありません。図版が多くテキストのボリュームは、それほど多くありません。

それにも関わらず、読後にとても充実した気持ちにしてくれる本です。

今まで自分が持っていた白洲正子のイメージがより焦点を結んで、白洲正子を理解できたような気がするからだと思います。掲載されている作品の写真も美しく、写っている白洲正子の表情も生き生きとしていて、いろいろと楽しく空想が広がります。

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白洲次郎と白洲正子が、生涯を通じて愛した家は、「武相荘」(ぶあいそう)と呼ばれ、夫妻の没後に2001年10月から、記念館・資料館として一般公開されています。この読後の印象が薄れないうちに、ぜひ一度訪れてみたいと思っているところです。

旧白洲邸 武相荘 Buaiso

それではまた。。。

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