
没後50年 自分の生き方を貫いた世界の板画家 棟方志功の自伝『板極道』
今年は棟方志功没後50年。棟方志功展をいくつか見に行きました。
ひとつは日本民藝館で開催された「棟方志功展 I, II, III」です。柳宗悦は、棟方志功がここまで有名になる前から棟方の作品を高く評価して、柳宗悦の眼を通して収蔵された作品は約200点。これらが、3つのテーマで展示されました。
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もうひとつは、青森県立美術館で開催された棟方志功没後50年記念展「青森の子 世界のムナカタ」です。棟方志功記念館等との連携により、青森に遺された作品の展覧会でした。
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これらの展覧会で棟方志功の業績に触れる中で、人間としての棟方志功、どのような人生を送ってきたのか、とても興味を持ちました。
「板極道(ばんごくどう)」は、棟方志功が自らの人生を記した自伝です。芸術家が自らの人生を書き記した本は多くありませんが、幸いにも棟方志功は自伝を著しています。いったいどんな生き方をして、独自の「板画」の世界を築いてきたのだろうと興味は尽きません。
「板極道」のおもしろさ
自伝である「板極道」のおもしろさは、一体なんだろう?
それは見た目や映像で残っている姿、世間後方志功に対して持っているイメージとのギャップがわかることでしょう。一気呵成に作品を描き上げるエネルギッシュさ、津軽弁で大声で喋る物の言い方、ぬぼ~っと垢抜けない風貌といったイメージが知られています。
序文で谷崎潤一郎が記しているとおりです。
「棟方志功君は奇人である。一度同君に面接した経験のある人なら、私のこの説に同感しない者はあるまい。」
ところが、「板極道」で本人が語っている文章から感じられるのは、現実を見据えて状況をよく理解して、豊かな感受性と高い理解力、そして自分でよく考えて行動する知的な人物なのです。
棟方志功のそんな等身大の姿を知らないことには棟方志功を理解したことにはならない、そんな気がしました。
独力で切り開いてきた人生
最近の芸術家であれば、美術大学で美術を学び、優れた先生の薫陶を受けて評価されていくようなキャリア形成が一般的なのでしょうが、棟方志功の幼少期の大正期、ましてや青森市生まれで貧しい境遇で育った彼は、そんな環境とは無縁でした。
物心ついたころから親しんだ、牡丹絵や凧の絵、七夕祭の催しのネプタが絵を描けと教えてくれたのです。そして、裁判所の給仕の仕事をしながら、合浦公園に写生をしに行くようになる。これが絵との出会いでした。
そして中学校の図画の先生を通じて知ったゴッホの話に夢中になって「ようし、日本のゴッホになる」と決意します。これが、一生涯画家として生きていく契機になったのです。
東京に出てからしばらくは油絵を描いて「帝展」に出品していたのですが、日本の洋画壇のあり方に疑問を持って、次のように考えました。
「日本人のわたくしは、日本から生まれ切れる仕事こそ、本当のモノだと思ったのでした。そして、わたくしは、わたくしだけではじまる世界を持ちたいものだと、生意気に考えました。」
そのとき、ゴッホが発見し高く評価して賛美を惜しまなかった日本の木版画に思い至り、自分の全部を展開しようと考えたのです。これが板画家としての原点になりました。
自分で考えを深めて、独力で運命を切り開く、そんな稀有な芸術家なのです。
多くの人に愛された人柄
何かを成す人は、必ずさまざまな人の助けがあって成功していくもの。棟方志功も多くの人に助けてもらって世界的な板画家になりました。
芸術家としての才能があることはもちろんですが、多くの人に愛されてきた人柄が後押しをしてくれました。青森では、裁判所に出入りの弁護士達からの募金がありました。東京では柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司と出会います。国画会に出展した作品が、日本民藝館の収蔵となるなど。そしてその後この三氏から大いに可愛がってもらいました。
文章にも滲み出ていますが、棟方志功には自分をこう見せたいと見栄を張るところが全くありません。話をするうちに、相手がいろいろ教えたり世話を焼きたくなってしまう、そんな人物だったのではないでしょうか。
画業一直線のひたむきさ
タイトルの「板極道」は棟方志功がつくった造語で、板画に人生を捧げてその道を極めたいという強い決意が込められているといわれています。その決意は「晩極道」の全てに通底していて、常に自分の板画をどう高めてゆけるかという意識が漲っています。
私にとって最も印象的だったのは、「板極道」の前半の三章「幼少年時代」「帝展初入選まで」「苦闘の日々」です。それ以降は、板画家としての評価が確立して次々と成果を挙げてゆき、世界的な評価を確立してゆくプロセスが描かれています。
やはり、いかに板画家としての自分を確立してきたかというストーリーに惹かれます。
まとめ
「板極道」を読んでから、今まで持っていた棟方志功の印象は大きく変わりました。外から見た作品だけでなく、本人が自ら語っている自伝を読むとよりその人物が理解できて、さらに深く作品を理解できるようなる。そんな当たり前のことが改めて実感できました。
「板極道」の魅力をもうひとつ。それは、挿絵が全て棟方志功の木版画であるということ。挿絵画家としても多くの作品を制作してきた棟方志功ですが、自伝のために自ら制作した板画は特別な意味を持つような気がします。独特の世界観を感じさせてくれる表紙も私のお気に入りです。
もし手に取る機会があれば、ぜひお読みください。
素晴らしい読後感をお約束します。
それでは。。。

板極道

