北欧デザインについてしっかり知って学べる『「北欧デザイン」の考え方』


北欧デザインについてしっかり知って学べる『「北欧デザイン」の考え方』

今回ご紹介するのは、北欧デザインの歴史から、その魅力と展望について書かれた本です。

筆者の渡辺千春さんは、北欧デザインに関する著作が多いデザインジャーナリストで、建築や家具、プロダクト、テキスタイルやグラフィックにいたるまで、北欧デザインが評価されている分野について造詣が深い方です。本書はいわば、その集大成と言ってもよいでしょう。

「はじめに」の中で、筆者はこのように語っています。

高品質なものを無理なく生活に取り入れることができる北欧デザインの信頼度の高さは世界共通のようだ。・・・北欧デザインというブランド力は非常に強いのである。

・・・本書では、どのようにして北欧のデザインがブランド力を培っていったのか、またどのようにしてそれをキープし続けていったのか、歴史を辿り、現在の状況を見ながら解きほぐしていこうと思う。

アメリカやヨーロッパのデザインのことはよく知っているけれども、北欧デザインといわれると漠然としたイメージしかない方が多いのではないでしょうか?今まで以上に注目度が高まってきている北欧デザインを知るには最適な一冊だと思います。

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分かりやすい章立て

北欧デザインがどのようにしてブランド力を培っていったかを解きほぐすのにあたって、筆者はとてもシンプルで分かりやすく章立てを設定しています。

冒頭に「北欧デザインを紐解く前に」ということで重要な予備知識が準備されています、「北欧地域の歴史概略」と「北欧各国のデータ」です。この北欧4カ国の歴史的背景と概要を理解することが、本書の内容を理解する上で非常に役に立ちます。

人口は4カ国合計で日本の約1/5の約2500万人、国土の広さは日本の約3倍の規模で、規模の割に世界に対する影響力の大きさには驚きを禁じ得ません。

本書の章立ては、分かりやすく年代を追うかたちになっています。北欧デザインの黎明期についての1章、世界にその存在を知らしめることになった黄金期についての2章、これからの展望について述べた3章という流れになっています。

  1章 北欧デザインの目覚め

  2章 黄金期を迎える北欧

  3章 新しい北欧デザインへ

ユニークな各章の構成

この本を読んでとてもユニークだと思ったのは、各章の中の「節」が、独立したテーマについて書かれたストーリーになっていることです。このストーリーだけでも一冊の本になりそうな充実した内容で、読んでいて飽きません。

それぞれの「節」では、テーマとして一つのデザイン分野に焦点を当てて、その分野のデザインの歴史、社会的な動きや文化を解説しています。その中で中心的に活躍した人物やイベント、出来事などをピックアップされて、「DICTIONARY」として纏められています。トピックになるキーワードが並んでいるので、調べたいキーワードは「DICTIONARY」を見れば分かるようになっています。

このユニークさと引き換えに、やや分かりやすさが犠牲になっているかも知れません。目次に並んでいる「節」のタイトルを見ると、一見脈絡もなく色々な内容のタイトルが並んでいるように見えてしまいます。内容を読むとそれぞれのデザイン分野の切り口でストーリーが展開しているので、全体を通してみれば、そのデザイン分野と時代を描き出すことに成功しているのですが。。。

2章 黄金期を迎える北欧

2章は、筆者が最も力を入れている章です。タイトルを読んでもテーマとデザイン分野がやや分かりづらいのですが、概ね次のように各デザイン分野について解説しています。

2-1  アメリカにおける北欧デザイン
2-2  デザイン・イン・スカンジナビア展

  → アメリカと北欧デザインの関わり

2-3  職人たちの手による家具
2-4  アルネ・ヤコブセンが目指した有機的なフォルム
2-5  アルヴァ&アイノ・アアルトが生み出した息の長いプロダクト 

  → 家具と中心としたプロダクトデザイン

2-6  フィンランドデザインの良心 カイ・フランクの思想

  → 陶磁器デザインとフィンランドデザイン

2-7  ローカルとグローバルを繋ぐ北欧のグラフィック
2-8  マリメッコがもたらした革新性とデザイン

  → グラフィックデザイン

2-9  北欧の人々が愛する照明の数々

  → 照明デザイン

2-10  ファンシーではない北欧の玩具デザイン

  → 玩具デザイン

2-11  日本の民藝運動と北欧デザインの繋がり

まとめ

読み物として楽しみながら、北欧デザインの黎明期から黄金期、北欧デザインの今後の展望までこの一冊で知ることができます。それぞれのデザインを単独に解説するスタイルではなく、歴史や地理的、文化的文脈を踏まえながら、広い視野で北欧デザインを捉えているのが本書の特徴です。

各節のタイトルがやや散文的、情緒的な印象があるため、これで北欧デザインの全貌がわかるのだろうかという不安を感じてしまう面はありますが、私たちが北欧デザインの魅力として感じているデザイン分野を、しっかり網羅しています。

そして、それぞれが独立した読み物としての情報量と面白さを合わせ持っているのが本書の一番の魅力だと思います。

デザイナーの固有名詞やイベントの名称など、初めて見るものもあると思いますが、DICTIONARYのカタチでしっかりと解説してくれているのでレファレンスとしても便利です。さらに知りたいトピックを掘り下げてゆくきっかけにもなってくれるでしょう。

年々注目度が高まっている北欧デザイン。これからもますます期待が高まっていくことでしょう。国土は日本よりはるかに小さく、人口も日本よりはるかに少ないにもかかわらず、世界中の人々を惹きつけていく北欧デザインのパワー、ますます大きくなるのではないでしょうか。

ぜひ一度手にとってみて頂きたい一冊です。

それでは、また。


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